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ワクチントライアルの初期の結果は間もなく出るだろうが、科学者の懸念は大きくなっている

Mallapaty S, Ledford H. COVID-vaccine results are on the way - and scientists' concerns are growing. Nature. 2020 Sep 25. doi: 10.1038/d41586-020-02706-6. Epub ahead of print. PMID: 32978611.
                                            翻訳 松崎道幸
                                            
来月にはいくつかの候補ワクチンが実用化近しという名乗りを上げるだろうが、期待が高まるにつれて、安全性確認試験を無事に切り抜けられるか、使用認可手続きが政治家によって曲げられないかという懸念が大きくなっている。少なくともその可能性が大きいように思われる。

2週間前オクスフォード大学がアストラゼネカと共同開発中のワクチントライアルが安全性確認のために、6日間中断された。このワクチンについて、南アフリカとブラジルでのトライアルは再開されたが、米国FDAは米国内のトライアル再開にオーケーを出していない。トライアル運営機関は、この中断の理由をほとんど開示しておらず、なぜ再開されたかについても説明を行っていない。このような不透明性がワクチンに対する信頼を損なうと批判する科学者もいる。

十分な安全性が確認されないうちに、ワクチンの承認と使用許可が政治的に出される恐れがあるとの声が高まっている。トランプ大統領は11月の大統領選挙前にワクチンの使用許可を出したいと言明している。

これらの懸念を減らすために、ワクチンの三大メーカ、アストラゼネカ、ファイザー、モデルナは先週トライアルの説明書を公表した。
これらのトライアルのプロトコールには安全性と有効性の指標だけでなく、以前なら公表しなかった詳細事項、例えば初期の結果を公表するかなども含まれている。説明書には、繰り上げ承認を得るためのトライアル中断の詳細についても記述されている。
科学者が注目している3点について論ずる
 
{安全性と透明性}
 
オクスフォードワクチンのトライアルで対象者の一人に有害事象が発生したため6日間トライアルが停止されたことに、専門家はそれほど懸念を抱いていなかった。このようなことはトライアルにつきもので、薬剤と関連のないことが多く、イギリス政府の当局者がすぐにトライアル再開を承認したところを見ると、オクスフォードワクチンの事例も同様だろうと考えられたからである。トライアル参加者は横断性脊髄炎を発症したとの報道がなされた。しかしアストラゼネカ、大学、イギリス政府のトライアル担当者はその参加者に関する情報を全く公表していない。
 
実はオクスフォードワクチンのトライアルが中断されたのは、これが2度目だった。トライアル初期に別な患者が横断性脊髄炎を発症したのである。アストラゼネカは、この1例目の患者が後に多発性硬化症と診断されたため、ワクチンとは関連がなかったと言明している。しかし、企業も大学も、これら二人の患者に対して実薬とプラセボのどちらが投与されていたかどうかは開示していない。

オーストラリア、シドニーのニューサウスウェールズ大学疫学専門家ライナ・マッキンタイア氏は、投与対象者数が少ない時期に、この二人のトライアル参加者が横断性脊髄炎を発症したとすれば、もし、もう一人同じ病気を発症したなら、このトライアルの継続自体が不可能になるおそれがあると述べている。
 
マッキンタイア氏は、横断性脊髄炎も多発性硬化症もウイルス感染と関連があると指摘する。新型コロナの患者にも横断性脊髄炎が併発していると追加した。オクスフォードワクチンが横断性脊髄炎と関係のないことを立証するためには、実薬ワクチン群とプラセボ投与群の横断性脊髄炎の発病リスクを統計学的に比較する必要がある。マッキンタイア氏は、米国は、国内でオクスフォードワクチントライアルを再開するためにはこの検証が必要かどうかを検討中なのかもしれないと述べた。
 
オーストラリア、ゴールドコースト、ボンド大学EBM専門家ヒルダ・バスティアン氏は、トライアルが中止した理由、再開した理由を詳しく公開する必要があると述べている。透明性が確保されないと、トライアル参加者が減り、ワクチンが完成しても受けないという人々が増えるおそれがあると付け加えた。「とても急いで開発されているだけに、ワクチンに対する信頼性をしっかり確保する必要がある」
 
アストラゼネカとオクスフォード大学は、より透明性を求める問いかけに答えていない。アストラゼネカの最高責任者パスカル・ソリオ氏は、9月24日の世界経済フォーラム主催のパネルディスカッション席上で臨床トライアルガイドラインには、個々の参加者のプライバシーを守り、トライアルの整合性を確保するために情報開示の制限あるいは禁止がうたわれていると発言している。

ソリオ氏は、ワクチンは公共の利益を左右するため、トライアルの質を損なわないで必要な透明性を保つ方策を検討する必要があると述べている。
 
{政治家の影響}
 
コロナワクチンに対する公衆の信頼性は、特に米国で揺らいでいる。トランプ大統領が「Operation Warp Speed」プログラムによって ワクチン開発速度を速めているからである。9月17日、ワシントンDCのPew Research Centerは、新型コロナワクチンを受けたいと考える市民の比率が5月の72%から9月の51%に減ったという調査結果を発表した。回答者の4分の3は、米国政府が、安全性と効果を十分確認しないうちにワクチンを承認するおそれがあると答えている。
 
これは従来のワクチン懐疑主義の延長線上の問題ではない。ワクチンの開発にあたる専門家でさえ、ワクチン承認が科学的根拠に基づいてではなく、政治的配慮によって曲げられると懸念している。「自分の子どもにワクチンを打つ前に、安全性データをしっかり点検するつもりだ」と、臨床トライアルデザイン専門家カート・ヴィエール氏は語る。
 
米国だけでなくヨーロッパでもワクチン不信が存在する。密室で製造企業とワクチン調達の相談が行われていることが、ワクチン忌避に火をつけているとブリュッセルの欧州公衆衛生同盟、政策担当ヤニス・ナティス氏は語る。「ワクチンに汚名を着せてならない。ワクチンへの信頼性を確保しなければならない。しかしながら、現在のところ、透明性は信じられないほど欠如している」
 
米国では、FDAの緊急使用認証(Emergency Use Authorization (EUA))という制度がもう一つの懸念材料となっている。EUAは、「有効である可能性がある」場合、通常の薬剤承認プロセスを省略して、使用を認可するものである。「あいまいで透明性が十分でないために、政治の介入する余地がある」とダートマス大学保健政策専門家ハーシェル・ナヒリス氏は語る。

新型コロナ治療のためにEUAによる使用が許可されたハイドロキシクロロキンと回復期血漿療法についても、政治的介入の懸念が存在する。トランプ大統領はどちらの治療法も支持しているが、臨床試験のゴールドスタンダードである大規模無作為化二重盲検トライアルによる検証がなされていない。入院患者へのトライアルで無効であることが確認されたハイドロキシクロロキンについては、EUAが取り消された。回復期血漿療法のEUAはトランプ大統領の政治集会の前日に発表されている。
 
そのため、先週発表された代表的候補ワクチン3種のクリニカルトライアルプロトコールが公開されたときに、多くの研究者は、それらの詳細を急いで精読している。全体として、プロトコールには特に問題はなさそうであると、エモリ―大学、生物統計学者デビッド・ベンケサー氏は語っている。
 
しかし一点だけ気になる点があると彼は語った。ファイザーのプロトコールでは、トライアルの安全性をモニターする外部専門家が中間データを閲覧する機会が、他の2ワクチンよりも多く許可されているとのことである。これは、実薬群とプラセボ群にそれぞれ割り当てられた32名の新型コロナ感染者のデータが収集された時点で、初期的効果の分析が可能となることを意味する。したがって、7月のトライアル開始から3か月後の大統領選挙の直前にトライアルの初期的効果発表が行われることになる。

米国では、FDAの緊急使用認証(Emergency Use Authorization (EUA))という制度がもう一つの懸念材料となっている。EUAは、「有効である可能性がある」場合、通常の薬剤承認プロセスを省略して、使用を認可するものである。「あいまいで透明性が十分でないために、政治の介入する余地がある」とダートマス大学保健政策専門家ハーシェル・ナヒリス氏は語る。

新型コロナ治療のためにEUAによる使用が許可されたハイドロキシクロロキンと回復期血漿療法についても、政治的介入の懸念が存在する。トランプ大統領はどちらの治療法も支持しているが、臨床試験のゴールドスタンダードである大規模無作為化二重盲検トライアルによる検証がなされていない。入院患者へのトライアルで無効であることが確認されたハイドロキシクロロキンについては、EUAが取り消された。回復期血漿療法のEUAはトランプ大統領の政治集会の前日に発表されている。
 
そのため、先週発表された代表的候補ワクチン3種のクリニカルトライアルプロトコールが公開されたときに、多くの研究者は、それらの詳細を急いで精読している。全体として、プロトコールには特に問題はなさそうであると、エモリ―大学、生物統計学者デビッド・ベンケサー氏は語っている。
 
しかし一点だけ気になる点があると彼は語った。ファイザーのプロトコールでは、トライアルの安全性をモニターする外部専門家が中間データを閲覧する機会が、他の2ワクチンよりも多く許可されているとのことである。これは、実薬群とプラセボ群にそれぞれ割り当てられた32名の新型コロナ感染者のデータが収集された時点で、初期的効果の分析が可能となることを意味する。したがって、7月のトライアル開始から3か月後の大統領選挙の直前にトライアルの初期的効果発表が行われることになる。

{ワクチン開発の目標と有効性}

主要三ワクチンのゴールと有効性を規制当局が承認したとしても、それらが人々が求めているワクチンではないおそれがある。
 
アストラゼネカ、ファイザー、モデルナのプロトコールには、ワクチンの目標が、入院あるいは死亡につながる重症の新型コロナ患者を減らすことでなく、発病して症状が出ること減らすことであると書かれている。
 
マッキンタイア氏らは、重症化を防ぐことをワクチン開発の目標とすべきだったと考えている。もしワクチンに重症の合併症を減らす働きがあるなら、ワクチンを受けた人は新型コロナに感染しても「普通の風邪」程度の症状で済むだろうと。
 
現在の第Ⅲ相トライアルでは、数万人のトライアル参加者を募っているが、新型コロナ重症化予防効果を確認するためには、さらに多くの参加者が必要であるとオークランド大学の生物統計学者、トーマス・ラムリー氏は語る。彼によれば、現在のトライアルは、感染そのものの防止と重症化防止の中間の効果を検討するデザインとなっていると語っている。
 
開発企業は、感染しても半数が無症状で済むという、FDAガイドラインに基づいた成功率を目指しているが、できるならば60%以上の効果を得たいとしている。

 しかし、60%では集団免疫が形成されないとラムリー氏はかたる。この目標を実現するためには、ワクチンの有効率が80%以上でなければならない。それは社会のすべての人々がワクチンを受けるわけではないためであるとマッキンタイア氏は語る。

住民の大多数にこれらのワクチンのどれかを接種したとしても、この感染を封じ込めるには時間がかかる。したがって、マスク装着、接触者追跡などの対策を同時進行させる必要があるだろうとラムリー氏は語った。「ほどほどの効果のあるワクチンがあれば、本当に大きな助けとなるだろう」と彼は語った。

【翻訳 松崎道幸(道北勤医協旭川北医院)】