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2013/11/28

 11月22日に日記で紹介した中国論文の考察(Disxussion)部分を髙橋雅人氏が完璧に訳してくれました。
 
この春に中国で発生したH7N9鳥インフルエンザの疫学的解析ですが、いろいろと示唆されることが多いようです。

SPATIAL AND TEMPORAL ANALYSIS OF HUMAN INFECTION WITH AVIAN INFLUENZA A(H7N9) VIRUS IN CHINA, 2013

中国に於けるインフルエンザA(H7N9)のヒト感染に関する地理的時経的分析

Eurosurveillance, Volume 18, Issue 47, 21 November 2013

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2013/10/28

 髙橋雅人氏からの翻訳文です。
 米国メンフィスの聖ユダ小児研究病院のチームによる論文ですが、全てのインフルエンザウイルスに有効な万能ワクチンに関する話です。
 少し難解かもしれません

 インフルエンザ万能ワクチン探究に於ける新たな洞察
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2013/10/21

 髙橋雅人氏からの訳文です。
 H7N9ウイルスが人の肺細胞に十分適合して入り、試験管内では増殖が季節性インフルエンザと同様に著しいというものです。


The Novel Human Influenza A(H7N9)Virus Is Naturally Adapted to Efficient Growth in Human Lung Tissue


ヒト肺組織に於ける新型インフルエンザA(H7N9)の効率的増殖に関する顕著な適合性

mBio vol. 4 no. 5 e00601-13
doi: 10.1128/mBio.00601-13 8 October 2013
        
Abstract

新型インフルエンザH7N9亜型が、肺炎や急性呼吸促迫症候群を随伴する重症例から分離され、また、2013年3月中国東部にて不顕性感染家禽からも分離された。我々は、死亡症例から分離したA/Anhui/1/2013(H7N9)ウイルスと、下気道感染を模倣する(mimicking)ヒト肺臓器培養組織(human lung organ culture system)に於いて、2株の低病原性トリH7亜型の増殖性、親和性、サイトカイン誘導を評価した。A(H7N9)ヒト分離株は、人工培養ヒト肺組織(explanted human lung tissue)に於いて、季節性インフルエンザウイルスと同様に効率よく増殖した。興味深いことに、トリH7亜型は、1型抗ウイルスインターフェロン(antiviral type I interferon (IFN-l))を高誘発したが、A(H7N9)は、低レベルのⅠ型抗ウイルスインターフェロン(low IFN levels)誘導であった。全ての分析株は、主にⅡ型肺細胞で認められたにもかかわらず、A(H7N9)ウイルスは、組織親和性に関して、他のトリインフルエンザウイルスやヒトインフルエンザウイルスと何ら異ならないことが示さている。組織培養ベース研究(tissue-based studies)に於けるインターフェロン-β促進因子の低誘導は、ウイルスNS1蛋白質に起因する効率的な抑制と関連することを示唆した。これらの発見は、人獣共通感染症A(H7N9)ウイルスが、ヒト肺胞組織に於いて効率よく増殖する顕著な適合性を示しており、多くの感染者に見られる重症下気道疾患に寄与している可能性が高い。  

Importance

通常、ヒトは、A型トリインフルエンザウイルスに感染しないが、このウイルスの大きな一群は、ヒトインフルエンザパンデミック株の発現に寄与する。病原性を有する A型インフルエンザウイルスのヒトへの伝播は、臨床学的に関連するモデル(clinically relevant model)に於いて、ウイルスの病原性やパンデミック潜在性と同様に、ウイルスの生態評価が求められる警戒すべき事象である。ここに、我々は、中国東部に於けるA(H7N9)発生初期のヒト分離株が、人工培養ヒト肺組織に於いて、ヒトに適合性を保有するA型インフルエンザと同様に効率よく増殖し、他方で、トリH7亜型ウイルスは増殖能力を保有していないことを証明する。H7N9株の強力な増殖性は、抗ウイルスインターフェロン-β(IFN-β)の低誘導に相関しており、細胞ベース研究(cell-based study)で、この低誘導が、ウイルスNS1蛋白質によるIFN -β応答の効率的な抑制に起因することを示した(indicated)。したがって、人工培養ヒト肺組織は、H7N9ウイルスのヒトへの異種間伝播を容易にする決定因子を探知する有用な実験モデルであると考えられる。

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2013/10/15

髙橋雅人氏の訳文前回の続き。
Discussionの一部と、discussionの末尾にありますconclusionの翻訳です。
前回訳文と合わせて参考にされると良いかと思います。

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2013/10/07

 髙橋雅人氏からの訳文提供です。
 本年6月発行のNATURE論文で、インフルエンザウイルスの空気感染の可能性を示唆する内容です(飛沫核感染)。
 論文の緒言(Introducion)と結論の訳文です。
 PDFファイルで掲載しました。

Aerosol transmission is an important mode of influenza A virus spread
飛沫核感染のA型インフルエンザウイルス伝播様式に於ける重要度
Nature communications publishied 4 Jun 2013

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2013/09/29


 髙橋雅人氏からの訳文提供です。
 非常に高度な内容ですが、現在のMERS状況を理解する上では非常に参考になる論説です。PDFファイルにしてあります。


 MERS-CoV puzzles persist a year after virus surfaced 発現1年マーズは依然正体不明
     By Robert Roos CIDRAP News Sep 20,2013
 原文

 訳文PDF


2013/09/22 


 髙橋雅人氏が下記カナディアンプレスの論説を訳して送ってくれました。
 9月16日付です。
 カナディアンプレス(CP)は、非常に良い記事をカナダ国内外に提供しています。

発生1年 未だマーズウイルスは闇の中

One year later, MERS virus remains largely a mystery

by Helen Branswell , The CANADIAN PRESS
September 16,2013

世界の学者達は、SARSを捉えて1年が経過したころ、かつて中国や香港、トロント等で発生し、感染地をも越境したパニックを引き起こしたウイルスに関して、更に研究を継続していた。

2003年3月15日、WHOのアラートが世界にとどろき渡ったわずか数週間後に、学者達は、遺伝子配列を含むコロナウイルスの存在と、その伝播様式を早々に突き止めた。コロナウイルスが自然宿主からヒトに感染している経路を確認したのである。学者達は、SARS感染者が感染力を保有していること。そして、その伝播を封じ込める手段を学んでいた。その知識を以て、ウイルスは、一気呵成に封じ込められたのである。それゆえSARSは、医学に歴史を刻んだと言える。

SARSの近縁ウイルスが、自然界のどこからともなく突如現れ、サウジアラビア人に感染し、死に至らしめているニュースが報じられて、今週金曜日で1年が経過する。発生以来、57名の死亡を含む約130の確定例が報告されている。

しかしながら、SARSとは対照的に、現時点までにMERSに関する情報は極めて乏しい。数週間後、数百万人ものハジー(Hajj)巡礼者が、MERS最大の感染地サウジアラビアに旅することに、MERS集団発生をただ見守るしかない学者達にとって、現実味を帯びた懸念である。

学者達の多くが、遅々として進捗のない事態の説明をするにあたり、情報不足による困惑のため紳士的に説明できないでいる。

10年前、アメリカCDCでSARS対策に従事した科学者、アンダーソン博士(Dr. Larry Anderson)は、「現時点までのMERSに関する情報量よりも、SARSに関して、その発生後2~3週間、いや、3~4週間後の情報量の方が多い」と証言している。現在、アトランタのメモリー大学医学部で教鞭をとるアンダーソン博士は、科学分野におけるMRESに関する情報量を、「憂慮すべきであり、話にならない状況だ」と述べている。

更に、アンダーソン博士は、「貴重な機会が失われていることは明白であり、驚くべきことに、我々が知り得たことよりも知らないことの方が多い」

「危機の規模は断定できないが、情報不足は、世界を危機に陥れる。仮に、我々が、十分な情報を持ち得ているならば、十分な準備が出来るが、今の我々にはその準備がない。万一、ウイルスが伝播すれば、本当に不運なことだと思う」と危惧する。

ミネソタ大学の疾病対策政策センター長官(the director of the Center for Infectious Diseases research and Policy at the University of Minnesota)のマイケル・オスターホウルム(Michael Osterholm)氏は、「WHOのような世界公衆衛生組織や各国政府が、感染国からの情報の欠落について公式に非難声明を出さないのか理解に苦しむ」とし、

「現状の情報欠落は、単に研究のための興味を満たすためではなく、潜在的世界規模の大流行に向けた準備と言う観点から、情報提供は、中東に於ける公衆衛生担当官が担っている世界に対する義務である」と強調する。

加えて、「明日、この感染症が、我々の身に振るかかる可能性があることから、我々は皆、世界公衆衛生の共同体として、現在進行形の感染伝播を阻止するために、現在なされている対策を知る権利を有する」とも語る。

WHOの最初のアラートから1年を経た頃、1000以上ものSARSに関する論文が投稿されたのであるが、現時点で、アメリカ国立医療文書館所蔵のオンラインインデックス, パブメッド(PubMed)での検索キーMERSに対して、約200件の該当項目を見出すに過ぎない。この新興感染症に重要な詳細を加筆する論文は、全体の一部に過ぎないのである。

先週、コロラド州デンバーで世界最大級の感染症年次会議が開催されたが、MRESに関する発表は皆無であった。

アメリカCDCのMERS対策を指揮するマーク・パランチ博士(Dr. Mark Pallansch)は、「この結果は、実際に、特にアメリカに於いて、どんな研究が行われているかを反映するものと考えている」と述べている。

対岸からこの集団感染をただ傍観するしかない困惑と苛立ちを募らせる多くの学者達からは、唯一多数の確定例を保有するサウジアラビアが、MRES患者に関する症例対象研究を行っていないように見える。症例対象研究とは、疫学の入門編(epidemiology 101:北米の大学に於ける受講講座番号を表す数字、概ね100代は1年次、200代は2年次に受講する講座)における研究方法を指す。この調査は、感染者(症例)と被感染者(対照)を比較することで、感染様式や行動様式、感染暴露及び生物学的特徴が、誰に最もリスクが及ぶかに関しての考えを育む理想的な方法である。

前記パランチ博士は、「CDCの疾病監視団が、サウジアラビアに於ける集団発生の調査派遣に際して、症例対象研究を優先任務リストの上位に組み入れた」と認めている。

WHOのスタッフは、7月初旬にWHOのウエブページ上に公示された、サウジアラビアや他のMERS感染国が活用できる症例対象研究用のひな型作成のためだけに派遣されたのであるが、WHOからMERS対策に指名されたトニー・マウンツ博士(Dr. Tony Mounts)は、事態が、論争点(つまり、感染国が、そのひな型を活用し、症例対象研究をしているのか)に基づいているのかさえ承知しておらず、しかし、その不承知は、ひな型を使用しているか否かという点に興味が湧かないためから生じているのではない。

マウンツ博士は、「私は、何がなされて何がなされていないのか承知していない。私が知るところは、彼らが患者を問診し、データーを収集しているということであり、彼らが症例対象研究を実行しているかどうか、それは疑問である」と話す。

サウジアラビア副保健相、ジアド・メニッシュ博士は、この記事に関するインタビューの申し入れに回答していない。

サウジアラビアからMERS研究に協力を要請され、メニッシュ博士から任命されたロンドン大学感染症研究者のアリマディン・ザミヤ博士は、「症例対象研究に関して話し合ったが、これまでMERSに関する症例対象研究がなされたかどうか把握していない」と語る。

サウジアラビアからの症例報告不足が、WHOに関連情報の収集を急がせているのは事実であり、この状況は、大発生に首を突っ込んでいるようなもので、それ故、学者達は、各症例の一貫したデーターを見たがっているだろうが、未だにそれを利用できないでいる。

パァランシュ博士(Dr. Pallansch)は、「今まさに、データーが、出版物か発表で開示されるか、或いは、データーを収集していないかが判明する段階であると考える」と言う。

予防接種と呼吸器感染症を担当する公衆衛生局事務総長(Director general of the public health agency’s center for immunization and respiratory infectious disease)のジョン・スパイカ博士(Dr. Jhon Spika)は、「近頃のサウジアラビアは、以前より迅速な症例報告と、より良い情報提供がなされている」とし、

「情報提供は明らかに良い方向に向かっていくだろう。昨冬から春までの4か月間の新規トリインフルエンザH7N9確定例数とほぼ同数のMERS確定例数に言及し、サウジアラビアからのMERS情報提供が、中国のH7N9情報提供ほど豊富とは言えない」とし、

「中国の学者達は、迅速な情報共有を図り、H7N9に関する論文を間断なく科学誌に投稿した。SARS発生当時の中国の情報開示は良かったとは言い難いが、今回のH7に関する情報提供は、まさに驚異的である」と語った。

MERSに関する知識ギャップは、文化要因に根ざしている。現時点で、MERS死亡解剖例は皆無である。なぜなら、イスラム文化に於いて解剖が行われたとすると、それは極めて稀なことなのである。

MERSに作用する薬剤を研究中のメリーランド大学マーズ専門家、マット・フリーマン博士(Dr.Matt Frieman)は、「情報不足のため、MERSウイルスが肺に侵襲するイメージが描ききれず、研究の足かせになっている」と言う。

感染暴露から発症までの典型的な範囲に収まる時間-潜伏期間-に関する経験に基づいた推測をすると、SARSでは、感染暴露から遅くとも14日(as late as14days)で発症したが、メニッシュ博士は5月のWHO会議にて、MERSでは、最長14,5日ではないか(it can be as long as 14,5days)と発言している。

しかしながら、感染拡大阻止の重要な情報である感染暴露の開始時期は判明していない。SARSでは、発症後に感染暴露が始まることから、感染者の隔離や接触者の検疫で感染拡大を阻止できた。この事実がMERSにも適応できることを望むところであるが、その潜伏期間を証明するデーターが存在しないか、或いは、共有されていないのである。

ザミラ博士は、「全MERS新規例の前向き研究(prospective study)の必要性と、喀痰、尿、便等の検体に於けるMERS‐CoVのウイルス負荷の計測が理想的であり、この方法が、感染暴露期間と感染対策を設定する唯一の方法」と述べている。

(参考)

以下のアドレスは、WHOが、感染国に提供した症例対象研究(a case control study)のひな型(a template)です。全体は21ページから成りますが、14ページ目から具体的な項目が記載されています。

http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/MERSCoVCaseControlStudyPotentialRiskFactors_03Jul13.pdf

(参考資料)
One year later, MERS virus remains largely a mystery By Helen Branswell, The Canadian Press September 16, 2013
http://www.canada.com/story_print.html?id=8918010&sponsor=



 髙橋 雅人(TM)氏から、英国公衆衛生学発祥の原因となったコレラ流行事件の顛末に関して、CIDRAP掲載から訳文が寄せられています。
 教科書的にも有名なエピソードです。

公衆衛生の重要性:ロンドンの悲劇からの教訓


 

19世紀半ばのロンドンの悲劇は、公衆衛生の教訓としてオスターホウルム(Osterholm)氏のマーズに対する警鐘に以下のように引用されました。

 出展:CIDRAP の 9月9日付、Offical report 8 new Saudi MERS cases, 3 fatal

 

"We're still not pulling the pump handle on this one," he added, referring to a well-known public health symbol involving a cholera outbreak in 1800s London that was traced to use of a community pump handle.

 

その悲劇とは、1853年のロンドンでのコレラの発生を指します。当時のロンドンは250万人もの人々が暮らす近代的ビクトリアン公共建築を誇る世界最大都市であり、人類史上最大の都市でもありました。この工業都市の環境は劣悪を極め、工場からのばい煙で空は曇り、廃液で川は淀んでいました。各世帯の糞尿やゴミの処理は、住居地下に貯留槽として1~2フィート(約60センチ)の穴を掘り,そこに投げ込まれるお粗末な処理に終始していたため、街には息苦しい程の腐敗臭が立ち込め、コレラ発生の土壌は十二分に整っていました。1831年の最初のコレラ発生から1853年から1854年の大惨事まで、イギリスでは、4~5年毎に1~2万人の犠牲を記録しています。保健局は、悪臭がコレラの病原体であると判断し、それを吸入することで発症すると考え、糞便やゴミの地下貯蔵を止めさせ、代替処理方法として川への投棄を許可しました。一時は街路の悪臭も軽減されたのですが、1853年、イギリス公衆衛生史上最悪のコレラが、最先端工業都市ロンドンに襲いかかります。発症した家族が、わずか48時間足らずで息絶え、その介護者も発症し死亡する。コレラ発生の震源地となったロンドン中心地のソーホー地区では、わずか7日間で10%の地域住民が死に絶え、恐怖のあまり発生後7日間で住民の4分の3がソーホー地区から逃げ出し、貧しさゆえ逃げ場のない者だけが取り残されました。ソーホー地区の犠牲は、わずか1カ月で616名に上り、ロンドンでは推定31000人の死亡を記録しました。 

 

 大惨事の最中、たった一人で毅然とコレラの原因究明に奔走した医師がいました。彼の名はジョン・スノー、内科医であり、イギリスで最初に麻酔を使用した医師でもあります。1849年、スノーは、コレラ大発生の4年前にコレラ伝播の経路に関して(On the Mode of Communication of Cholera)を出版し、「どの症例に於いても常に初期症状が消化管障害を呈することから、罹患者の便で汚染された下水道による飲料水で人から人に感染拡大すると考え、コレラによる災難は下水道汚染による飲料水が原因である」と主張しました。つまり、家屋地下の貯水槽のし尿や糞便を川に投棄することで、その川から取水した水を飲料することが原因であると断定したのです。しかし、当時の医学界や行政当局、地域の水道会社は、原因は腐敗臭にあるとし、問題解決に向けた手立ては何もとりませんでした。スノーは、1853年から1854年のロンドンのコレラ発生を、彼の主張を証明する絶好の機会であると捉えました。彼は、躊躇なく最も被害の深刻なソーホー地区に赴き、被害住民への聞き取り調査や環境調査を行いました。その結果、ソーホー地区のブロード通りに位置する最も水質が良いとの評判の1本の井戸の周辺に感染者が集中していることや、その井戸から遠く離れれば離れるほど感染者数が減少することから、その井戸の水質汚染がコレラの原因であるとする調査結果をソーホー地区の教区監督署に報告し、教区監督署は、不承不承ではありますが井戸の使用を禁止し、ようやく感染流行は治まりました。しかしながら、その時期が流行終息期と重なったことから、保健局が、コレラの原因が汚染飲料水であることを認めるには更なる時間が経過しました。つまり、空気感染を主張する保健局は、スノーの疫学的論証で説明しきれない感染源の不特定を挙げ退けたのです。その穴を埋めたのがスノーの勇気ある活動に賛同したホワイトヘッド牧師でした。彼の地域に根ざした長年の布教活動は、地域住民から絶大な信頼を得ており、それゆえ被害住民の赤裸々な回答が、スノーの聞き取り調査の欠落部分の補足に大きく寄与しました。ソーホー地区に於いて、最初の症例が確認される前に、実は、コレラ様症状を呈した4カ月の乳幼児がおり、おむつを洗濯した汚染水を家屋地下の貯水槽に流した事実をつかんだのです。その貯水槽から疑惑の井戸までわずか3フィート(約90センチ)しかなく、スノーは、感染の原因が汚染水であるとする自説に基づき、疑似症例の便がその井戸水を汚染し、まさにこの井戸こそが疫病の震源地であると断定したのです。実際に、この貯水槽には致命的な漏れが発見されました。この発見は、スノーの複雑な研究成果を視覚化する「感染地図」の作成へと発展します。地図には、問題の井戸を中心に道路と家屋が書き込まれ、世帯別の死亡者数が棒グラフで表わされています。しかしながら、保健局の動きは鈍く、コレラ終息の1年後、ホワイトヘッドはその著書「建設者:the Builder」で、「当局の介在がなく、未だにあちらこちらに地下貯水槽が見られ、依然としてソーホー地区の生活環境は劣悪であり、何も手を打たなければ、来るべき時にソーホーは、再び危険極まる場所と化す」と記述しています。

 

1866年、ロンドンは、再びコレラの襲来に見舞われましたが、すでに保健局は、糞便やゴミの家屋の地下貯水槽や川への投棄を禁止し、問題解決に必要不可欠である下水道の建設も開始しており、感染予防として水を煮沸処理することを啓発しており、大流行には至りませんでした。実に、スノーの活動開始から4~5年が費やされていました。ロンドンに於けるコレラ発生は、これを最後に見られません。コレラの大流行を鎮めたスノーの活動を象徴する、ハンドルを取り除いた記念のレプリカポンプが、感染震源地となったブロード通りから数ブロックの所にあります。

 

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/cb/John_Snow_memorial_and_pub.jpg/450px-John_Snow_memorial_and_pub.jpg

·        Description: John Snow memorial and pub, Broadwick Street, London * Photographer: User:Justinc {{cc-by-sa-2.0}} Category:London monuments

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/27/Snow-cholera-map-1.jpg

Published by C.F. Cheffins, Lith, Southhampton Buildings, London, England, 1854 in Snow, John. On the Mode of Communication of Cholera, 2nd Ed, John Churchill, New Burlington Street, London, England, 1855.

(This image was originally from en.wikipedia; description page is/was here.

Image copied from

http://matrix.msu.edu/~johnsnow/images/online_companion/chapter_images/fig12-5.jpg)



2013/09/08

 TMさんからLANCET論文の訳文をいただきました。
 医学的に難しい論文ですが、一部の方々には参考になります。

 原文は購入登録してないと閲覧はできませんので、翻訳文だけを掲載します。
 中国で発生しているH7N9鳥インフルエンザのウイルス学的分析に関する論文ですが、その進化が人へ感染しやすい状態にまでなってきていることを、他のH5N1、H9N2ウイルスの例を引き合いに出しながら解説されています。

 The world waits for H7N9 to yield up its secrets 世界は、H7N9の秘密の暴露を待っている
 The Lancet Infectious Diseases, Volume 13, Issue 6, Pages 477 - 478, June 2013

H7N9インフルエンザウイルスの遺伝子組成の鍵の解明に於いて、すでに哺乳類感染に抗原刺激されているとする推察が示唆される心配がある。家禽には、土着した数種のインフルエンザウイルスが存在するが、その家禽が、野鳥ウイルスを許容することで、家禽ウイルス株に感染した家禽が野鳥と接触し、結果、異なる二つのウイルスが、各々の感染源からの遺伝子を交雑して、遺伝子を交換することで、遺伝子再集合体を発現させる機会が常に生じる。この機序は、H7N9が、野鳥ウイルス由来の表面糖タンパク質(HAとNA)を含有する一方で、6本の内部遺伝子が、過去20年に亘り家禽に於いて伝播しているH9N2ウイルス由来であることから、H7N9にもあてはまるように思える。H9N2ウイルスは、すでに変異せずとも様々な哺乳類へ顕著に効率よく増殖する能力を保有しており、H9N2ウイルスが、通常のあらゆるトリインフルエンザウイルスよりも哺乳類に適応性があるとの認識から、インフルエンザ専門家にとって懸念材料である、とFouchier氏は語る。

中国学術病原性細菌免疫学研究所センター(The Chinese Academy of Key Laboratory of Pathogenic Microbiology and Immunology )のウエンジャン氏(Wenjun)によるH7N9に於ける最初の網羅的系統樹解析(The first comprehensive phylogenetic analysis of H7N9)と題する論文が5月に医学雑誌ランセットに掲載された。それによると、「これまでH7N9ウイルスがヒトに適応しているという知見はない」としながらも、各新規例は、ウイルスが持続的なヒト-ヒト感染に必要な適応変異を獲得する過程を提示するものとする。また、Fouchier氏とウイスコンシン大学マジソン校のインフルエンザ専門家の河岡義弘氏のチームは、H7N9が、パンデミック株たるに必要な3つの適応のうち2つを既に獲得しているとする知見を示している。

ヒトのパンデミックを惹起するウイルスは、すべからく空気感染の能力を獲得したものである。一年以上掲載を差し止められたFouchier氏と河岡氏の物議をかもした再設計H5N1ウイルス(re-engineering H5N1virus)に関する研究は、H5N1ウイルスがH7N9と同様にトリの間で伝播し、最終的には哺乳類に対する感染(dead-end infection in mammals)であることから、インフルエンザウイルスが哺乳類に空気感染する能力を獲得する過程を調べたものである。

その過程において、第一に、トリインフルエンザウイルスは、トリの消化管の受容体に結合するが、ヒトに対しては呼吸器の表皮細胞に結合する必要があることから、受容体特異性の変異が必要である。第二に、インフルエンザウイルスは、哺乳類の上気道にて低温で増殖する能力を獲得する必要がある。変異した受容体結合に寄与する2つの変異と、低温で増殖に寄与する1つの変異を示す再設計H5N1実験に於ける3つの変異の公表後、Fouchier氏と河岡氏は、フェレット感染実験で、より効率的な空気感染の能力を獲得するための適応を発表した。それによると、より効率的な空気感染の能力を獲得するための最終ステップは、HAのより安定した細胞結合を要し、それがわずか数回の変異で成立するというものである。「H7N9は、すでにヒトの上気道の表皮細胞に結合し、低温で増殖する変異は興味深く、H7N9が、再設計H5N1ウイルスと同様の変異をきたしていると仮定すると、恐らくH7N9ウイルスもヒトを含む哺乳類への適応にわずか数回の変異まで迫っているのではないかと一抹の不安を覚える。しかしながら、一本の論文を基に多様なトリインフルエンザの全てを推定することは極めて危険である」と、Fouchier氏は警鐘を鳴らし、「将来このような問題が提起され続けるであろうことから、実験を継続する必要がある」と語った。


2013/8/29
 TMさんから科学雑誌”ネーチャー(Nature)のアブストラクトの訳文が送られてきました。

Characterization of H7N9 influenza A viruses isolated from humans
ヒト分離H7N9インフルエンザウイルスの特徴

 Nature アブストラクト  2013年7月10日doi:10.1038/nature12392

 トリインフルエンザA型ウイルスは、ごく稀にヒトに感染するが、ヒトへの感染とそれに随伴するヒト-ヒト感染の持続的発生で、世界的大流行(パンデミック)が起こる。
 中国においてトリに不顕性であるがゆえに検出されず伝播したインフルエンザA(H7N9)亜型のヒト孤発例(散発例)は、確定例の25%以上が死亡していることや、潜在的にヒト-ヒト感染の可能性があることと、A(H7N9)亜型に対する既存免疫が欠落していることから、パンデミックが懸念される。
 
 我々は、ここに発生初期のヒト分離ウイルスA(H7N9)のA/Anhui/1/2013とA/Shanghai/1/2013、(以下Anhui/1、Shanghai/1とする)の特徴を明らかにする。
マウスを用いた実験に於いて、Anhui/1、Shanghai/1は、対照トリインフルエンザH7N9(A/duck/Gunma/466/2011(H7N9);(DK/GM466)と、代表的なパンデミックウイルス(A/California/4/2009);H1N1pdm09、より高い病原性 を示した。Anhui/1、Shanghai/1、DK/GM466は、フェレットの鼻甲介で効率よく増殖した。通常のインフルエンザの増殖は、感染した霊長類の上気道に限局されるのが典型であるが、Anhui/1とDK/GM466は、非ヒト霊長類に於いて、上下気道で効率よく増殖したが、対照的に、Anhui/1は、ミニブタの鼻腔内接種に於いて非効率な増殖を示した。重要な事は、Anhui/1に於いて、3組のペアのフェレットのうち1組で飛沫感染(空気感染)が成立したことである。糖鎖試験では、Anhui/1やShanghai/1を同定した検査で同定されたヒトの3症例目のA/Hangzhou/2013(H7N9)は、フェレットでのウイルス感染力に重要とされるヒト型受容体に結合した。Anhui/1とパンデミックH1N1 2009ウイルスは、共に治験薬ポミネラーゼ阻害薬に同程度の感受性であるが、Anhui/1は、マウスに於けるノイラミニダーゼ阻害薬(現在一般的に使われている抗インフルエンザ薬:タミフル、リレンザ他)に対し感受性が低下していた。

 マウス、フェレット、非ヒト霊長類に於いて強力な増殖能力を保有し、かつ、フェレットを用いた実験のAnhui/1の限定的な感染力は、Anhui/1ウイルスがパンデミック候補株であることを示唆するものである。


2013/8/29

外岡先生

 毎日、最新情報をありがとうございます。
 N社のMTです。
 以前にもメールをお送りしたことがございます。



 さて、8月22日にエジプト墓穴コウモリ(ETB)の記事があり、今日(8月29日)の「本音でエッセー」にあるFlu Trackersの記録と重ねて調べてみました。

①ETBはIUCN(国際自然保護連合)のRedListに記載された絶滅懸念がある保護種で、サウジアラビアでの主たる生息地(少数は全土にもいると思われますが)は、半島南西部―マッカ地方(メッカが含まれます)とされています。
②MERS患者の>80%は、サウジアラビアでの感染者で、感染者が出たと記録がある地域(リヤド・Asir、Al-Asha、メディナ)は、マッカ地方を取り囲む地域です。
③EIDの論文で、MERSウイルスが見つかったETBは、メッカから約350Km離れたBisha(Asir地方?)で捕獲されています。

私は感染症の専門家でもありませんし、情報が少ないので憶測ですが、上記からだけでも、スッキリしない部分が残ります。

・ヒトへの感染は果実等を介した間接的な形なのでしょう。
・他種のコウモリ又は動物のリザーバーがいる可能性もあるのかもしれません。ETBだけとは思えません。
・ETBが他地域よりは多いとされるマッカ地方では、報告以上により多数の患者がでているのかもしれません。

一方、ラクダに抗体が見つかったという記事もありました。
 ラクダは生存するために、植物ならトゲがあっても平気で食べるそうですから、果実等を介し、MERSウイルスに感染していてもおかしくないのかもしれません。

 いずれにしても、致死率が殆ど変らないのが恐怖です。
先生が何度も指摘されたように、もうアジアにまで感染が拡大している(可能性が否定できない)今、遅まきながら日本も本腰を入れる時期に来ていると思います。

末尾ながら、どうぞご自愛のほど。